私が小学生のころ、富田くんという友達がいました。富田くんと私は学校が終わるといつも一緒に遊んでいました。当時の遊びと言ってもゲームなどはありませんでしたから、近所を自転車で走り回るぐらいでした。
ある日、富田くんが「誕生日に買ってもらった」と言って、スピードメーター付きの自転車に乗ってきました。スピードメーター付きの自転車といえば当時の小学生の憧れの高級車でした。私は近所のお兄ちゃんのお下がりしか与えてもらえない貧乏な家の子だったので、富田くんのスピードメーター付き自転車がとても羨ましかったのを憶えています。
そのスピードメーターはアナログ式で、自転車が走りだすと指針がよれよれと少々頼りない動きで上がっていきます。しかし小学生の私はその針がどういう仕組みで動いているのかさえわかりませんでしたからもうそれだけで興奮してしまい、
「今何キロ出てる!?」
と、しょっちゅう聞いていました。富田くんはさぞかし迷惑だっただろうと思います。
そのスピードメーターには目盛りが時速30kmまで刻んでありました。私はどうしてもその針を一度30km/h以上に振り切らせてみたいという衝動に駆られ、あまり乗り気ではない富田くんを緩やかな下りの直線道路に連れて行き、「俺も一緒に走るから30km/hになったら教えてくれ」と言いました。
私の説得に折れたのかそれとも熱意に同意したのかスタート地点に着いたころには富田くんはノリノリで、
「30になったら教えたるからついて来いよ!」
と言って、思い切りペダルを漕ぎ始めました。しかし私の自転車はお下がりのオンボロでしたから、変速機付きの新型車についていけるはずもありません。途中まではなんとか必死でついていきましたが、速度に合わせてシフトアップする富田号はじわじわと離れていき、ついには2馬身ほど離れてしまいました。
ああ〜くそ〜もうムリや〜〜と思ったころ、富田くんが大きな声で、
「出た〜〜〜!!!30〜〜〜〜〜!!!!」
と叫びました。富田くんは私を置いて時速30kmの向こう側へ行ってしまったのです。
その後も富田くんは速度を上げ、おそらく既に振り切っているであろうスピードメーターの指針を見ながら何かを叫んでいますが私にはもう聞こえません。せめて3段でもいいから変速が欲しいなあ息を切らせて小さくなっていく富田くんの後ろ姿を眺めていると、なんとそのまま停まっているクルマのトランクに突っ込んでしまいました。
前をよく見ていなかったようです。幸い大きな怪我はありませんでしたが、自転車は大破、トランクは大きく凹み、我々は警察に連れて行かれて迎えに来た母親にこっぴどく叱られました。富田くんはずっと泣いていました。
今はロードバイクに乗っていますから時速30kmなどいとも簡単に到達しますが、それでもメーターが「30km/h」を示すと富田くんのことを思い出し、「しっかり前を見よう」と顔を上げます。富田くんのお陰で今のところ無事故です。
本日発売の新型フリードは、追突防止システムを搭載したHONDAセンシング装着車を選ぶことができます。富田くん、いかがですか?

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